本年度は主として、Nimijataka散文に伝えられる、Makhadeva王の「白髪をきっかけとする出家」譚を、Nimi王と関連づけて伝えるMajihima Nikaya所収Makhadevasuttaを中心に据え、考察を進めた。 Makhadevasuttaが伝える「ヴィデ-ハ王による生前の天界訪問」譚冒頭場面は、二つのヴィデ-ハ王伝説から生み出されたものであることが分かった。すなわち、Nimijatakaに伝わる、より古い段階の「天界訪問」の伝承テキスト冒頭部分と、同じjatakaにおいてこれに先行して伝わる、もう一つのヴィデ-ハ王伝説「サッカとニミ王による出家と在家についての問答」とがそれである。 また、Makhadevasuttaと中阿含経所収『大天〓林経』は何れも、この「天界訪問」に「白髪出家」譚を併せた二つのヴィデ-ハ王伝説を取り込んでいる。しかし両伝本はその取り込み方に、それぞれ特徴を持っていることが分かった。すなわち、Nimijatakaと唯一同じパーリ語伝本Makhadevasuttaは、バラモン教の布薩・梵住と、仏教の八正道を理論上の対モデルとして示すことに熱心であり、その際、ヴィデ-ハ王伝説の伝承テキストを改作することに躊躇しない。一方の漢訳伝本『大天〓林経』は、バラモン教的内容の色濃い同伝説の伝承テキストをより忠実に採録し、王の優れていることを打ち出そうとしている。そして、その王の修める行よりさらに優れているのが、仏教の八正道であることを示そうとしている。 このように、Nimijatakaに収録されるヴィデ-ハ王伝説のうち、「天界訪問」と「白髪出家」を中心に、様々な角度から各伝本の性質を明らかにし、また伝本相互関係の解明に向け研究を進めることができた。
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