1997年度は、科学研究費の援助を受け、以下の2つの分野を中心に研究を行い、その成果を研究論文の形で公表した。 (1)現代日本語の名詞化辞の認知言語学的研究 現代日本語には文を名詞化して、「が」、「を」、「に」、「で」などの助詞の直前に生起することを可能にする、「の」、「こと」、「ところ」などの「名詞化辞」という文法カテゴリーが存在している。また、これらの有形の名詞化辞の他に、古代日本語より残存している、述語連体形による名詞化(辞任する(0)に至った)「ゼロ」)が存在しており、上述の有形の名詞化辞と競合している。従来の国語学の研究においては、これら有形、無形の名詞化辞がどのようにその生起環境を「すみわけ」ているのか、という点を明らかにするような研究はほとんど行われて来なかった。本研究では、有形と無形の名詞化辞の生起分布の背後にある認知的な要因を明らかにした。 (2)現代日本語の名詞化辞の文法化の特徴に関する研究 現代日本語において用いられる「こと」、「ところ」、「もの」などの名詞化辞(「形式名詞」とも呼ばれる)は、古典日本語から引き継がれているものであり、日本語の歴史的発展のなかで、接続助詞(「...(した)ところで」、接続詞(「ところが、...」)をはじめとする多くの文法的用法を発展させている。本研究では、そのような名詞化辞の文法的用法の発展の過程(「文法化」)に着目し、他の言語との対照しつつ、日本語特有の文法化のメカニズムを探った。
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