存在所有動詞の調査に関して、本年度は、主に分析対象とする言語の基本データを収集し、分析を行った。資料収集に関しては、基本学術文献の調査を行い、その検討を行った。本年度の調査で明らかになったことは、さまざまな言語において、存在所有を表すことができる動詞におもしろい分布が見られたことである。具体的には、ほとんどの言語において、Be動詞に相当する、意味的には余り意味のなさそうな動詞が存在し、それらの動詞が、基本的に存在、所有、場所という三つの意味を表せるということである。さらに、調査した30あまりの言語では、その分布に一種の偏りを見いだすことができた。それは、場所と所有を表すのに一つの語を用い、場所を表すのに他の語を用いる言語がないということ、また、それぞれの意味を別の語で表す言語も存在しなかった。その他の可能な組み合わせ、例えば、存在と場所を一語で、所有を別の語で表す言語、あるいは、すべての意味を単一の語で表す言語、あるいは、存在と所有を一語で、場所を別の語で表す言葉は、存在した。サンプルが少ないので、これが言語の普遍性を表しているのかどうかは、不明であるが、すくなくとも、意味と語の組み合わせにおもしろい傾向が確認できた。この調査の過程で、日本語の所有文と英語の存在文が、統語的に極めて似通ってかつ、特異な統語特性を示すことも確認できた。来年度は、このことに焦点を当ててさらに、研究を進めてゆく予定である。本年度の研究の成果については、兵庫教育大学の言語表現学会において、中間報告という形で、発表を行った。
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