9年度の結果を元に、本年度は以下の研究を実施した。 (1) 鹿児島の若者のことばに見られる音韻現象を、アクセント面を中心に体系的に整理した。具体的には、家族・友人など親しい人との談話と面接の間で使用される言語特徴に違いがあるのか、あればどのような点が違うのか、など場面差による影響を考慮して、7人分の話者(男性2名、女性5名)の録音資料を各場面につき約20分間文字起しを行い、その発話すべてにアクセントを記入し、特に鹿児島的、共通語的ではないアクセントに注目して、次のように分類した。1)『全国アクセント辞典』掲載の在来アクセントとの型の不一致、2)撥音、長音などのモーラのアクセント的独立、3)在来アクセントと共通語アクセントの混交(ネオ方言型)、4)一般複合法則への違反、5)平板的アクセント。これらの現象は、(a)鹿児島方言の音韻システムの変化へ向かう動き(1)、2))と(b)中間コード形成の動き(3)、5))の二つに分けられるようだ。7名中1人の話者には、全ての語アクセントを「鹿児島的」、「共通語的」、「中間方言的」に分類し、数量的分析を試みた。 場面差に関しては、現在項目を整理中のため確実ではないが、特に面接場面の方がネオ方言型、共通語型アクセントが多くなるようだ。1)や2)などのシステムの変化に関わるものは、すべての場面で観察される。 (2) 上記(1)の結果を元に、当初は中間方言的アクセントの録音テープを聞かせて若年層と中・高年層の被験者の反応を探るための音声アンケート調査を実施する予定だったが、アクセントの付与に膨大な時間がかかり、結局大学生50人の予備調査を終えただけにとどまった。結果は現在整理中である。 また、調査の結果をまとめて研究成果報告書を作成する予定だったが、時間不足のため、十分な結果が出るに至らなかった。報告書は来年度作成したいと考えている。
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