研究概要 |
本研究は日英語における実時間内での人間の文処理過程を考察し,人間の文処理システムを忠実に反映した文処理モデルの構築を通して動的な側面から言語知識の構造・機能に示唆を与える事を意図したものである. 平成9年度は,研究代表者が博士論文で提案した文処理モデルの経験的妥当性を検証するための一手段として,計算機科学者の協力を得て計算機上でのシミュレーションを行った.その結果,母語話者の直観に概ね合致する計算結果を得ている.現時点ではまだプログラムの設計に研究代表者の意図が完全に反映されているとは言えないが,計算機シミュレーションに当たってはモデルに計算論的な厳密さが要求されるので,より完全なモデルの構築にとって計算機科学者との議論は大変有益なものである.今後も,モデルの検証手段としてのみならず,計算機科学の知見を活用する意味も含めて計算機シミュレーションを行っていきたい. また,研究代表者が提案する文処理モデルは言語入力の構造化に際して統語的制約を利用するが,現段階での本モデルにおける統語的制約は既存の統語論に十分な基盤を持つとは言い難い.従って,平成9年度においては,本モデルの統語的制約を再考・整理し,既存の統語理論との関係を明確にした.また本モデルは解釈のための内部表現として組み合わせ的な構造を持った記号表現を用いるが,表現の並列性を認める点に特色がある.新たな統語的制約を備えた新モデルの妥当性については現在実験的検証を準備している.まず日本語母語話者を対象に,処理の並列性を確認する実験を行う予定である.
|