行政指導論の国際的議論(比較法的議論)の手法を、日米行政法を素材として開発した。日米でどのように「フォーマル」 「インフォーマル」の概念の分水嶺が異なるかを出発点として、次のことを明らかにした。 第一に、日本行政法での「インフォーマル」論を概観し、そのもっとも重要な論点である「行政指導」論を構造化するため、行政指導に対して判例学説が作り上げてきた法的評価枠組みを、六つの類型に分類した。まず「法外の政策内容を実現するための手段」としての行政指導と、 「法定の政策内容を実現するための手段」としての行政指導に大分類し、前者についてはさらに、 「法外の政策基準への協力依頼」 「民民紛争の仲介」 「緊急措置」という三つに、後者についてはさらに「裁量権の協働行使」 「裁量判断の表現方法」 「法的の行為形式・手続のバイパス」という三つの類型の法的評価枠組みが現れていること、それぞれにおいて固有の法的問題が生じていることを指摘した。また、 「法外の政策内容を実現するための手段」としての行政指導について、なぜそれが正当かという論点が、これまで学説上不当に無視されてきたこと、ひとつの回答として、これを通常の行政活動として正当化することは憲法上無理であって、政治的活動として評価し直す必要があることを指摘した。 第二に、米国行政法における行政手続法・手続論の構造を、「行政手続観」 「望ましい決定環境」 「手続鋳型」という三つのレベルに分解して理解したうえで、 「インフォーマル」を問題視する問題群として、三つのものがあることを析出し、それぞれにおいて固有の法的問題が生じていることを指摘した。第三に、日米の「インフォーマル」な議論を比較し、日米ともに「インフォーマル」と呼ぶ日本の行政指導論における「法外」の目的のための指導と、これに対応する米国の議論(第三の問題群)との間に見られる際だった差異を具体的に指摘した。
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