本年度は研究計画年度の第1年度に当たるため、租税条約に関する基礎的調査として、既存のOECDモデル租税条約や1996年米国財務省モデル租税条約を中心に、従来のモデル租税条約と近年の主要国での租税条約改訂の内容の相違を、条約法文の比較、コメンタリー、議会議事録等の1次参考資料の収集などを通じて、追求した。その結果、次のような点が明らかとなった。 (1)租税条約は、従来、源泉徴収税の減免、二重課税の排除など、租税債務に関わる実体法に関する規定が大半を占めていたが、近年の改訂独米租税条約や改訂米仏租税条約、米国財務省モデル租税条約に見られるように、条約適格のない第三国居住者による条約適用を回避するために、実体的な条約便益制限条項や、行政手続きの一環としての居住者証明規定などが現実の条約にもモデル条約にも導入されつつあり、そのような傾向が、少なくとも先進国間の租税条約においてはかなり普遍的に見られるようになってきている。これは、租税条約の適用を積極的に受けることで、租税減免措置の効果にあずかろうとする第三国居住者のタックス・プランニングが広範に行なわれ、それによって本来ありうべき税収が確保し得なくなっていることを示している。 (2)また、国内法上の税率の引き下げを通じた「租税競争」に対して先進国は強い懸念を示しているが、そのような傾向が租税条約においても見られるようになってきており、租税条約の内容の傾向に、国内租税法(特に法人所得課税の法制度)の影響が現れているのではないか、との疑問が生じた。この点については、研究計画年度の第2年度(最終年度)である平成10年度に分析を行なう必要があると思われる。 (3)研究計画案立案当初予想された、各国での租税条約解釈には区々まちまちな点があるのではないか、との疑問については、現実の条約の解釈をめぐる、米・カナダ間や米仏、米独間での裁判事例の収集を行なっているが、裁判例として公表されている例はあまりないことが判明した。行政実務については、必ずしも日本内で情報収集が可能ではないので、第2年度での研究方法については、見直す必要が生じた。
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