非占有動産担保権の準拠法に関する問題のうち、平成9年度は、外国法に従い設定された約定動産担保権の内国における有効性の問題に対象を絞って、ドイツ法の抵触法的処理を分析検討した。まず、平成9年5月12日に東京大学で開催された国際私法学会第96回大会で、「非占有動産担保権の渉外的効力について-ドイツ判例の展開を中心として-」というテーマで報告を行った。学会報告後、ドイツ法における判例の評価および位置づけを学説の側から照射すべく、この問題に関するドイツ学説の動向を調査した。現在、この問題に関するドイツ判例および学説の推移をまとめた論稿を作成中である。 この問題に関するドイツ法の論況の要点は次のように整理できる。 1963年に連邦通常裁判所(BGH)がフランス法上の非占有質権に対して占有質主義をとるドイツ法上での効力を認めたのを契機に、ドイツの裁判実務は、現在まで一貫して、外国法に従って設定された約定動産担保権に対して寛容な態度をとってきた。こうした寛容性の基部には、ドイツ民法上で譲渡担保という非占有担保が承認されている状況があり、そうした実質法的状況の考慮は、ドイツ法秩序との合致性を前提とする準拠法変更の際の既得権存続原則の下でなされてきた。 合致性の判断を中心に置く判例理論に対して、ドイツの学説は別の理論構成を展開する。とりわけ有力な論者から主張されているのが、いわゆる転置理論(外国動産担保権の内国における効力は、内国法上の類似の動産担保権に置き換えて判断されるとする理論)であり、1991年のBGH判決でもこの理論が採用されている。しかし、内外物権の転置の必要性については、複数の論者から異論も提出されている。 研究の暫定的成果として、以下の項目について理論的省察を行う予定である。(a)転置理論の妥当性(b)内国法秩序との合致性審査の理論的構成(平成10年5月末に脱稿予定)
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