平成10年度は、昨年度から引き続き取り組んできた、「外国法に従い設定された約定動産担保権の内国における有効性」に関する論文を完成させた(平成11年3月上旬に法学新報にて発表)。この論文では、外国から内国に到達している動産(例えば船舶・航空機、輸入貨物)に対して、外国法に従い有効に成立した担保権が設定されている場合、その担保権は内国で行使できるか、という問題を扱った。外国法上の担保物権を内国で行使しようとするとき、その外国担保権の効力は内国の担保物権に置き換えて(転置して)判断されると一般に説明されている。このいわゆる「転置理論」の妥当性および理論的構成について、日本法とドイツ法の判例学説を比較検討した。筆者が指摘したのは、外国法に従って成立した非占有動産担保権が、日本法上の動産質権に「類似」するものと解釈され、かつその上で、責権の効力発生要件である目的物の占有を満たしていないという理由で、たやすく日本法上の効力を否認される可能性である。こうした解釈を回避するためには、「類似」の判断基準および転置の構造が明確にされていなければならないが、従来のわが国の議論ではこの点が不十分と思われた。「類似」に代えて、ドイツで主張されている「機能的等価」という基準を用いたとしても、この欠点は克服されない。「機能」の比較は、慣習上の物権および実務慣行まで対象に含めることができ、物的担保としての実務上の利用状況や、非占有動産担保の経済的長所としての非占有性など、比較の際に重点を置く要素を複数抱えているからである。そこで、これらの難点を克服するために、内国法秩序における公示の要請と外国物権の合致性をまず総合的に判断してから、個別の担保物権の転置を考える構成を提案した。転置と占有要件との関係についても試論を展開した。
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