研究概要 |
本研究においては、民事訴訟における国際的な証拠収集に関して、国家管轄権理論からの問題分析を念頭に置きつつ、既存の国際私法・国際民事訴訟法、国際法及び民事訴訟法の研究との接点も求めて、多角的な視座からの総合的な問題解明を試みることができた。 国家管轄権理論に関する外国文献を検討した結果,自国証拠収集手続の域外的実施を認める見解が増えてきていることが判明した。また,日本においても同趣旨の見解が登場してきている。 わが国における国際的な証拠収集に関するいくつかの質問について裁判官、渉外弁護士、企業法務関係者から回答をしてもらった結果、当事者による自発的な証拠提出に関しては,積極的にこれを認めることが実務として定着していることが判明した。「主権侵害性は個人の同意の存否によって左右されない」との建前は,実務においては必ずしも堅固なものでない。ただ,強制的な命令に関しては,実務も明確でないようである。わが国における国際証拠共助上の外国への嘱託・受託の件数がなぜ少数であるかの理由については,先ほどの自発的な国際的証拠提出がうまく機能していることが大きな要因であるといえる。 わが国においては,国際的な証拠収集が,主として当事者の自発性により解決されていることが多いようである。外国に証拠が当初所在する場合でも,外国に証拠収集・取調べを嘱託するという伝統的な国際司法共助の方法でなく,わが国の民訴法を直接適用した証拠収集・証拠調べが行われていることになる。 このような実務を積極的に受け入れる国際証拠収集手続の理論の構築は,すでに十分可能である。ただし,命令的な証拠提出の実施を実務が取り入れられるよう,さらに論理的基盤を整える必要がある。
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