本研究は、現在質量ともに重要性を増している公法的規制が、私法に対してどのような影響をもたらすかという点について総合的な検討をおこなうことを目的とする。このような観点から、本年度においては次にような作業をおこなった。 第1に、公法的規制と私法を媒介する基礎として憲法に着目し、そこから公法と私法の関係を整序するための理論枠組みを構築する前提として、基礎的な作業をおこなった。具体的には、この問題に関して議論が進んでいるドイツ法を調査・分析し、それを参考にしながら理論研究をおこなった。その結果、憲法と公法ならびに私法の関係に関する最近の議論をフォローすることにより、国家の基本権保護義務ならびに基本権支援義務という視点から、公法と私法を統一的に理解する視座を得ることができた。その過程で、こうした議論の中心的論者の1人であるクラウス-ヴィルヘルム・カナ-リスによる「ドイツ私法に対する基本権の影響」いう論稿を法学論叢誌上に翻訳紹介した。 第2に、公法的規制の私法上の効力に関するわが国の法状況を調査検討した。具体的には、その前提として公法的規制の全体像を構造化する必要があると考え、できるかぎり広い範囲にわたって公法的規制に関する文献を収集し、そのフォローにつとめた。それと同時に、「取締法規違反の行為の私法上の効力」に焦点をあて、それに関する戦前・戦後の裁判例を網羅的に収集し(約250件)、その分析をおこなった。現在、この分析を第1の理論枠組みに照らしてさらに深める作業を進行中である。
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