土壌汚染問題は、一義的解決を許さず複雑かつ多様化している。これまでに得られた知見は、法政策上の視点を示すにとどまる。論点の整理、検証、精緻化等については次年度の研究で明らかにしていく予定である。 1 予防と浄化措置に係わる土壌汚染の評価 (1)予防にかかわる環境基準については人の健康被害発生防止よりも、環境に対する、すなわち地下水・土壌一般に対する被害防止を目的とすべきである。なぜなら土壌汚染による影響は、水、大気、生産物等を通じての間接汚染として現れるので、人体被害が発生した段階では手遅れになるとともに、新しいタイプの汚染であれば因果関係を確定するのに困難を伴うからである。この場合、「環境被害」の意味内容が問題となる。一例として生態系への影響を基準にすることが可能である。(2)規制の対象地域については、水文学的環境、エコシステムを考慮して地下水、土地一般、河川等を全体として把握することが重要である。(3)汚染された地域については、まず浄化措置と関連して汚染地域を全国的に明確化(例えば地図の作成、登録簿等の公表等)すべきである。この場合、汚染土壌を法律上いかなる基準で評価するかは検討を要する。予防については、警戒区域、あるいは土壌の性質等から被害の発生しやすい地域の指定等が考えられる。 2 責任原理、浄化費用負担の配分 責任原理については無過失責任はもとより汚染者負担の原則、遡及的責任がすでに立法上採用されているが、今後は浄化措置に莫大な費用がかかる場合、社会保障上の概念も視野に入れて財源の問題を検討すべきである。 3 既存の法体系の評価 関連諸法、たとえば、環境基本法、水質汚濁防止法、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律、公害防止事業費事業者負担法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律等を体系的に統合していく必要がある。
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