本研究は、少年司法における「保護」理念を子どもの人権の観点から再構築することを目的としている。 人権論としての新しい「保護」理念ついては、すでに過去の研究によりその骨格を暫定的に提示しておいたので、本年度においては第1に、この新しい「保護」理念が少年司法の直面する重要課題、すなわち適正手続の保障(とりわけ、抗告権の保障と不利益変更禁止原則)と重大犯罪に関する検察官送致について、どのような理論的解決を与えうるのかについて究明した。前者については、新しい「保護」理念の下での適正手続の意義を示したうえで、少年の主体的な手続関与を可能にするための適正手続の本質的要素として抗告権が実質的に保障されなければならず、そのために不利益変更の禁止が保障されなければならないことを明らかにし、とくに福祉的・教育的なケース・ワーク過程としての本質を持つ少年審判を受ける権利の決定的重要性を説いた。後者については、新しい「保護」理念の下で小年は、応報や一般予防の観点からの社会秩序維持の要請が強いことを理由にして、少年として福祉的・教育的な手続・処遇を受ける権利を剥奪されえないことを論じた。適正手続保障の点については、来年度、ソウルで開催される国際犯罪学会において報告することを予定している。 第2に、文献資料等の収集・整理・分析を通じて、強圧政策への傾斜を強めている1970年代後期以降のアメリカ少年司法の変容が、旧来のパレンス・パトリエ的「保護」理念の本質的限界に起因することを解明するための研究に着手した。この点に関する研究は、予想以上に複雑かつ困難であって、いまだ十分な進展がみられないが、研究成果の一部を、来年度発表したいと考えている。
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