本研究は、少年司法における「保護」理念を子どもの人権の観点から再構築することを目的としている。今年度は、主に次の点について研究を進めた。1 昨年度の研究成果(法政研究2巻2号)を発展させて、第12回国際犯罪社会学会(1998年8月ソウル市)において、報告"Double Jeopardy and the Right to Appeal in the Juvenile Proceedings of Japan"を行い、同名の論文を法政研究 3巻3=4号に発表した。新しい「保護」理念の下では、審判過程への少年の主体的参加とそれを基礎にした少年の理解・納得を確保するために、抗告権保障が重要であり、不利益変更禁止が不可欠であること、人権としての二重の危険禁止から非行なし不処分決定に一事不再理効が認められるべきことなどを論じた。 2 現在進行中の少年法改正とも関連させつつ、非行事実認定をめぐる司法と福祉の交錯について研究を行った。この成果は、刑法学会名古屋部会の共同研究の形ではあるが、論文「非行事実認定をめぐる司法と福祉」にまとめ、刑法雑誌38巻3号に発表する予定である。非行事実認定において少年の主体的参加、自由な意見表明が保障されなければならず、それが少年司法におけるデュー・プロセスの本旨であること、検察官関与=対審化の改革構想はこれに反することなどを論じた。3 アメリカ少年司法の強圧政策への傾斜について研究を進めた。この動きは、子どもの人権としての「保護」理念の構築・発展から見て批判的に評価されるべきであり、目的とされた効果的犯罪統制にも成功せず、社会的機会を不平等に少なく配分されたマイノリティの少年が法的正義の名の下に社会から排除・淘汰されるという社会的不正義などさまざまな矛盾を生み出した。1999年夏頃までに、成果の一部を発表する予定である。これに関連させて、日本の厳罰論的改革提案について1999年5月の刑法学会の共同研究において報告する予定である。
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