本研究では、平成9年度・10年度の両年度にわたって、日本の「財界」の形成と展開を歴史的に解明することをその目的としている。本年度の作業の一つは、日本における「財界」の組織化を、大正昭和の経済危機に際して行われた「財界世話業」のネットワークの制度化という観点から説明するという、昨年度得られた成果を公表することであった。本年3月か4月に北海道大学図書刊行会から刊行されることになった、北大法学部ライブラリー『情報・秩序・ネットワーク』掲載の「『財界世話業』と経済システムの危機--戦前日本『財界』の形成と組織化」(再校終了)がそれである。この論文は明治初期から現在に至る「財界」のあり方について比較政治の視点から通観したものにもなっており、これまで私が発表した「帝人事件考」(日本政治学会編『年報政治学1995・現代日本政官関係の形成過程』、岩波書店、1995年)及び、脱稿・提出済みの「高橋是清と『挙国一致』内閣」(東京大学出版会から刊行される北岡・御厨編『三谷太一郎教授還暦記念論文集(仮題)』掲載予定であるが、刊行の予定は立っていない)という二つの論文とあわせて、「財界」の組織化に関する枠組みを概ね明らかにし得たと考えている。 もう一つの作業は、こうして形成された「財界」が外交政策、特に対中国政策に対して与えた影響力について具体的に検討することである。 本年度は数回の出張によって、日中戦争前夜の対中政策に対する「財界」の態度に関する史料を収集し、現在その成果を執筆中である。この論文は「再考・日中戦争前夜」と題し、本年中に必ず刊行される、学会機関誌に掲載されることが内定している。 これらの論文を基に、「戦前日本の『財界』と政治」と題する単著を将来刊行したいと考えている。
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