本年度はまず、前年度に引き続き史料の収集に努めた。山口県田布施町立郷土館(岸信介文書)、法政大学大原社会問題研究所(農民組合関係資料)、国立国会図書館憲政資料室(有馬頼寧文書ほか)などの機関を訪れ、多数の資料を収集した。同時に、活字化された史料および研究文献の収集も進め、全体として、基礎的な史料についてはほぼ収集することができた。 その上で、著書・論文の執筆の執筆を行い、(1)著書『経済復興と戦後政治』(東京大学出版会、1998年)、(2)論文「戦前無産運動の再検討(上・下)」 (『UP』1999年5・6月掲載予定)を公表した。(1)は、1997年2月に博士号を授与された論文を基礎とするものであるが、本研究で得られた知見を多く盛り込んでいる。とりわけ、戦後日本の政治経済に対して朝鮮戦争が与えたインパクトを体系的に分析したことがあげられるであろう。(2)は、戦前以来の農民組合運動指導者で1955年から衆議院副議長をつとめた杉山元治郎を手がかりに、無産運動を分析したものである。特に、1950年代前半に農業セクターにおける杉山と有馬頼寧・石黒忠篤の人的関係が政治的に切断されたことが、55年体制成立の前提になったことを解明した。 さらに現在、朝鮮戦争の休戦という情勢の下、自由党・改進党・右派社会党・左派社会党・経済団体・労働組合・官僚といった諸政治アクターが様々な戦後構想を提案し、そのなかで55年体制が形成される過程を分析した論文を執筆している。
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