本研究は、脱植民地化過程で分断国家として成立し、北朝鮮と対峙しつつ国家建設を推進してきた韓国の「上からの開発」の進展に伴う政治体制の変容と「国家一社会関係」の変容を、「開発」「国家安保」「ナショナリズムの展開」を軸に解明することを目的とした。本年度は、まず、国家が開発を「国家安保」と関連してどう位置づけて推進したか、その過程で社会の側の「対外認識」はいかに変化していったかという問題を軸に、「公定ナショナリズム」による国家統合と「分断国家における統一と民主化を求めるナショナリズム」とのダイナミズムを解明した。成果の一部は、拙稿「韓国ジャーナリズムの日本像」(山内・古田編『日本イメージの交錯-アジア太平洋のトポス』東京大学出版会、1997年所収)に反映した。また一方で、国家が「国益」の中で開発をいかに位置づけて推進し、社会の側がどう対応したかという問題を扱い、方法としては、農村近代化運動や教育の過程で国家が「国益」や近代化をどのように定義して国民を動員したかを検討し、この「上からの開発」を国民がどのように受けとめたのかを世論調査によって検討した。その結果、(1)国家は開発を推進する過程で「近代化」の価値を強調すると同時に伝統的な価値を再構成して国民を動員した、(2)開発の進展やその矛盾よって国民の側では国家の言う開発に包摂されない意識が顕在化した、(3)そのような意識の転換が政治変動の要因になった、などの点が明らかになった。これは拙稿「開発によるアイデンティティと価値観の変容-韓国の「上からの開発」の進展と社会意識の変化-」(山内他編『岩波講座 開発と文化4 開発と民族問題』岩波書店、1998年所収)に一部をまとめた。以上のように、今年度は「開発と政治変動」の問題を、対外認識とナショナルアイデンティティという2つの観点から検討した。次年度はこれらの成果を総合的に検討し、研究の目的を達成したい。
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