本研究は、脱植民地化過程で分断国家として成立し、北朝鮮と対峙しつつ国家建設を推進してきた韓国の「上からの開発」の進展に伴う政治体制の変容と「国家-社会関係」の変容を、「開発」「国家安保」「ナショナリズムの展開」を軸に解明することを目的とした。前年度に引き続き、権威主義体制期において、国家が開発を「国家安保」と関連してどう位置づけて推進したか、その過程で社会の側の「対外認識」はいかに変化していったかという問題、及び、国家が「国益」の中で開発をいかに位置づけて推進し、社会の側がどう対応したかという問題を扱い、対外認識とナショナルアイデンティティという2つの観点から「開発と政治変動」の問題を検討する作業を進め、さらに87年の「民主化宣言」後の変化も考察した。即ち、韓国における「民主化」の進展、北朝鮮の体制矛盾の顕在化などにより、従来の「冷戦構造を強調する公定ナショナリズム」と「統一と民主化を求めるナショナリズム」のダイナミズムという構図が成立しなくなる時期において、国家及び様々な社会勢力が「開発・安保・ナショナルアイデンティティ」をどのように認識するようになったかという問題である。廬泰愚・金泳三政権期において、この問題に関する争点を検討した結果、(1)国家の側で「国防」と「経済開発」の分離が進むと同時に、(2)反政府勢力においても「統一」を「政治体制の民主化」と直結させる方向性は薄れ、(3)社会の内部においては韓国大のナショナルアイデンティティが強力になって北朝鮮は国家の外交・防衛政策の対象として認識されるようになり、(4)政府と反政府の対立も韓国内の社会構造の問題を巡って展開されるようになるという変化が明らかになった。その成果の一部は、本年度の日本政治学会での報告「韓国の開発体制の変動と市民社会」に反映された。とは言え、廬泰愚政権以降の外交政策における対北朝鮮認識や社会内部の北朝鮮観の変化を実証的に検討できず、上記のような変化を経つつも分断国家におけるナショナリズムが「民族・統一」というシンボルを通じてどのように作用しているかにまで解明が至らなかった。これに関しては、今後の課題としたい。
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