ポスト冷戦時代の南北朝鮮社会内部の変動及び南北朝鮮関係の分析を行うための基礎作業として、戦後の冷戦構造が南北朝鮮の国家と社会に及ぼした影響に関する実証研究に、次の5つの角度から取り組んだ。第一に、北朝鮮自体の内部資料である「北朝鮮」及び「労働新聞」「民主朝鮮」などの一次史料を分析することによって、北朝鮮政府自体が冷戦構造をどのように認識し、その冷戦認識を政治体制の権威主義化と国家主導の経済発展にどのように利用してきたのかを、特に、農業集団化と重化学工業第一主義をなぜ選択したのかに焦点を当てて、同時期の韓国における朴政権の輸出志向型工業化戦略と比較することによって解明することに努めた。現在のところ、未だ目に見える成果を上げるには至っていないが、他方で、李 鐘〓・徐東晩・朴明林・柳吉在など韓国で活躍する若手の北朝鮮研究者との交流をより一層深めることにより、北朝鮮研究のおもしろさを学んだことは貴重な経験であった。第二に、アメリカの外交文書に対する調査を行った。60年代に関する米韓関係、米朝関係に関する史料調査を行うことによって、当時アメリカが進めようとした日韓国交正常化と韓国軍のヴェトナム派兵に対して北朝鮮がどのような反応を示すことをアメリカ政府が念頭に置いていたのかを解明した。第三に、韓国の外交文書に対する調査を行った。66-67年の外交史料を閲覧することにより、韓国が同時代の北朝鮮をどのように見ていたのかを一次史料を利用して詳細に分析することによって、60年代の南北朝鮮関係とそれが北朝鮮社会に及ぼした影響を解明した。また、韓国を訪問し、韓国における韓国研究及び北朝鮮研究のレビューをうけた。第四に、従来のかんこくの政治経済に関する研究を、97年末に深刻化したアジア経済危機に照らして再検討する作業を行った。この研究成果を「岩波講座開発と文化第5巻開発と政治」所収の「発展途上国の開発と民主化:韓国の事例を中心として」という論文を発表した。最後に、97年度は韓国において大統領選挙が行われ、金大中が新しい大統領に選ばれたように、ポスト冷戦時代の朝鮮半島において、韓国社会の内部からも新しい動きが見られた都市であったので、韓国の政治・社会を同時代的に観察・分析する作業を行った。この成果の一部は、雑誌「世界」12月号に「保守化」のなかの「政権交替」へ:韓国大統領選挙の構図と争点」という論文として発表した。
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