ポスト冷戦時代に入って、キューバにおいて進行している経済改革、共産党や国会(人民権力議会)の機構改革、その他の制度的改革や人事面での刷新といった動きは、最高指導者たるフィデル・カストロ国家評議会議長の主導のもとにすすめられてきた。しかしながら、この間にキューバにおいては社会的流動化が進行し、共産党の指導力は大きく低下している。 こうした状況下で、党の中枢部では、世代交代と地方組織の強化、職場や教会といったインフォーマルな共同体との関係強化等にとりくみはじめており、新しい時代におけるキューバ社会主義のあり方を模索している。その際、カストロらは米国的な民主主義の価値観や市場メカニズム万能主義を厳しく批判しつつも、政府と市場の調整機能を果たしうるような共同体重視の姿勢を見せている。 本研究(平成9〜10年度実施)では、キューバの政治指導者たち(カストロを除く)の政治行動原理に大きく影響を与えている思想として、キューバ独立の父といわれるホセ・マルティがあること、ただし、それをどのように解釈するかにあたってはカストロの言動に制約されていることを実証的に研究する。尚、カストロが青少年期にどのような思想的形式を行ってきたかについては『クロニック20世紀人物史』(講談社、1998年刊行予定)に、概要として投稿した。
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