平成9年度においては、基本的史料の収集、公刊資料の購入、各地域研究者との情報交換が中心的な作業となった。その中でも、基本的史料が東京に集中していたため、国内旅費の消費が多くなり、同時に収集した史料の整理にアルバイトが活用され、謝金の支出が増大した。こうした活動により基礎的調査が進行し、研究の基盤が確立しつつある。また、10月より千葉大学法経学部に移ったため、移転作業の関係上、やや活動が中断されたが、東京を中心とする調査がより容易になり、研究の更なる進展が期待されている。 20世紀における地中海地域の研究は、これまで世界的にも蓄積の少ない分野であったため、ようやく最近になり多くの業績が見られるようになった。また、イスラーム地域研究が日本でも活発となるにつれ、ヨーロッパ側とは異なる視点からのアプローチも増加している。国際政治史を複合的な分析方法で行うためにも、こうした流れを踏まえながら裾野の広い実証研究が必要となっている。 以上のことから、第一の方向としては、より長いタイムスパンと広い地域的視野から歴史を捉えていくことが試みられ、第二の方向としては、増加しつつある新しい研究を概観して整理することが重要となろう。これからの指針としては、この二つの方向性を念頭におきつつ、二種類もしくは複合された包括的論文が準備されることになる。但し現段階では、これまで集積してきた史料、文献を慎重に吟味していくことが、実りある成果をもたらすと考えられる。このため、二つの方向性をどのように統合していくかという課題を着実に追求する関係からも、発表予定論文として明確な主題を性急に提出することは控えるが、平成10年度末までには具体的な業績が見込まれている。
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