本研究は、国際秩序の変化を、比較の視座を加えながら、多元的に捉えようとした。その手始めとして、環地中海地域が、第二次世界大戦前から戦後にかけて、どのような構造的変化を遂げていったかを考察した。研究の方向性は、一方で現在の国際情勢を包括的に概念化し、他方で歴史的な背景と流れを理解していく、という二つの流れが存在した。このため、とりわけ中東地域においてPKO活動等が注目された、国際連合の役割を検討し、戦後の国際秩序をめぐる議論の整理を行った。また同時に、後発帝国主義国イタリアを素材として、第二次世界大戦への転換点となる1930年代に注目し、研究を続けた。 この時期は、戦前の帝国主義構造の解体期であると同時に、戦後の国際秩序形成の黍明期でもある。当時のファシスト・イタリアは、地中海新ローマ帝国を作り出そうとして、旧来の帝国主義国イギリス、フランスと対決姿勢を鮮明にしたのである。こうして戦後に形成されていく新たなナショナリズムの流れは、戦間期に様々な形で展開された新旧帝国の抗争から生じたものと言えよう。 本科学研究においては、戦前と戦後にまたがる双方の史料を収集、整理し、新たな分析視角形成を試みてきた。その直接の成果は、1935-6年のエチオピア戦争をめぐる国際環境に関する論文として結実した。歴史に関する実証的研究の場合、資料の収集、整理、分析に膨大な時間がかかるため、今後更にこの方向性に根ざした別の論文が準備されていく。また、理論的整理の方向性については、特に日本との関係で国連改革の問題が考察された。これは、冷戦構造崩壊後の秩序形成を念頭に置きつつ、世界全体から地中海にまで広がる新たな枠組みの分析と連動している。このように歴史的考察と理論的分析双方から新たな検討が試みられていく予定である。
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