この研究では、日本の財政投融資制度に関して、産業組織論的な視点から分析した。このための基礎理論として、寡占市場における企業間の競争について分析した。まず異なる目的関数を持つ公企業と私企業が競争する場合の経済厚生について分析し、部分民営化(公企業を株式会社化し、一部を除いてその株式を民間部門に売却すること)によって必ず経済厚生が改善することを明らかになった。更に民間企業に比べ公企業の生産性がかなり低い場合には、完全民営化が最適であることも明らかになった。 上記の結果は、企業数が外生的に与えられた、つまり参入規制によって私企業の新規参入あるいは退出がないという仮定から得られたものであった。近年私企業と公企業が競争する混合市場においても、(暗黙の参入障壁も含めた)参入規制は急速に弱まり、私企業の新規参入あるいは退出がしばしば見られるようになった。このような現実に対応し、参入規制がなくなり、企業数が内生的に決まる市場においても上記の結論が正しいのかを分析した。この結果、自由参入市場では民営化が経済厚生を改善する効果が弱くなること、公企業が正の利潤を得ている限り公企業の民営化は望ましくないことが明らかにされた。この結果は、財投機関の民営化の是非は、日本の金融市場の規制の程度に依存することを示しており、将来の一層の金融市場の規制緩和は、利潤をあげている財投機関の民営化を不要なものとする可能性があることが明らかになった。ただしこの基準となる利潤概念は現実の会計上の利潤とは異なり、会計上の利潤が正であることは財投存続のための必要十分条件ではないことも同時に明らかにした。
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