現代の市場経済では、資源配分は市場を通じてと共に、何らかの再分配政策によって為されている。再分配政策は社会保障政策としての意義を持つが、このような政策は「ソーシャル・ミニマルとしてのニーズの保障」という理念によって正当化されている。このような理念を厳密に資源配分問題における一つの分配原理である「ニーズ原理」として定式化する事をまず試みた。その定式化に先立ち、人々にとっての価値ある人生を選択し、実現する為の実質的機会集合を表す適切な指標として、アマルティア・センの「潜在能力」概念を採用し、それを数学的によりオぺレ-ショナルに再定式化した。さらに、与えられた社会的文脈の下で、全ての人々が最低限保障されるべき「参照潜在能力水準」を設定し、個人的な責任性を問う事が不可能な何らかの客観的偶然的要因によって「参照潜在能力水準」を満たす事が出来ない個人が発生しうる場合には、その個人への何らかの社会的補償を要請する基準を「ニーズ原理」と定義する事に成功した。 次に「ニーズ原理」を満たす分配ルールとして「潜在能力マキシミン・ルール」を提唱し、その公理的特徴づけを行った。まず、そもそも分配ルールというものを各個人の戦略集合が可能な労働時間の選択集合であるようなゲーム形式として定義した点に独自性がある。これは、このルールの下で、全ての個人は自由に自分の労働時間を選択する権利を行使出来る事を意味する。第二に「潜在能力マキシミン・ルール」は、各労働時間プロファイルに対して、全ての個人が共通に最低限利用可能な「共通潜在能力」を最大化するような分配の仕方を割り当てるものとして定義される。さらに、このルールは「労働供給の選択に対する責任の公理」と「偶然的要因に対する補償の公理」の2つの基準を共に満たすルールである事を証明した。以上の主要結果をまとめてディスカッションペ-パア-として完成させた。
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