周知のように、我が国は急速に高齢化・少子化社会に向かっており、そのマクロ経済的激変は大きなものと予想される。そこで日本の特徴に留意を払いつつ、高齢化・少子化のマクロ経済的帰結を理論的・実証的に研究を開始した。なかでも公的年金改革を巡る議論を整理し、若干の実証分析を行った。そのなかで鍵となる概念は消費の習慣形成である。 習慣形成とは近年の消費関数をめぐる議論のなかで、盛んに重視されているもので、過去の消費量が多いほど現在の消費量が与える効用には負の影響を与えるというものである。言換えれば、生活レベルが急に下がることは望ましくない、という素直な直観をモデル化したものといえる。このような考え方はわが国の公的保険が所得比例部分を持ち、「部長には部長の体面を、ヒラにはヒラの体面を」という孝え方と整合的である。実際、高い給与を貰っていた人にはそれなりの処遇をすべきである、という考え方は根強く、踏込んで言えば、高い給与を貰っているひとの(政治的)支持がなければ公的年金制度はもたない、という政治経済学的な解釈もできよう。これより、理論的にはSafety Netであることが望ましいはずの公的社会保障が、結果的には「中流階層対策」となっている現状を分析により裏づけることも可能である。 実証分析の結果、 (A)高齢者世帯は平均でみて大幅に収入も少なく貯蓄もさほど多くなく、かつ「つつましい」生活意識を持っている。 (B)過去の生活習慣形成の結果、年金比率が高いほど、生活が苦しいと考える人が多い。 (C)高齢者世帯の就労に関する意識は「働いていても生活が苦しい」というものであり、「働いているので人並に暮せる」わけではない。 などの諸点が暫定的ではあるが明らかになった。
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