満足化原理に従う主体が不可逆的時間の中で自立分散的に行動し、それらの相互作用によってマクロの振舞いが規定される経済システムを分析するものとして複雑系経済学を捉え、その構築作業を行ってきた。これはもともとケインズの『一般理論』形成史研究の中でケインズ・テクストの理論構造を明確化するために構想された体系であるが、学説史的背景と基礎モデルについては平成9年に出版した『ケインズ-歴史的時間から複雑系へ』(日本経済評論社)にまとめた。さらに複雑系経済学を具体化するために、定型的行動を考える際の正常概念が組織内部より自己組織されるメカニズムをモデル化(NOLTA‘97および進化経済学会非線形問題研究部会で報告)、その後モデルのバージョンアップとその成果の研究会報告(岐阜経済大シンポジウム・経済理論史研・ケインズ研ほか)を経て、一層の具体化作業を続行。また様々な複雑系経済学を巡る立場を整理するために、経済学にとっての方法論的変革となりうるかという観点からその条件を考察(社研年報)、一方、こうした経済モデルをベースにしたアプリケーションのひとつとして情報処理バッファとしての貨幣の評価方法を確立するための作業も行った(小樽商科大学におけるワークショップ報告)。
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