研究概要 |
本年度は、規制緩和の経済的効果について、寡占理論との関連で、理論的整理を行った。規制緩和論では、公的規制がいわば参入障壁となり、停滞的な寡占状態が発生し、それによる非効率が発生している場合、規制を緩和ないし撤廃して、そうした状況をより効率的な状況へと改善しようとするものでる。規制緩和の論理系列では、規制緩和→参入→競争激化→価格低下→需要拡大→生産増大→雇用増大が規制緩和の正の効果として想定されている。問題はこうした正の効果が実現するかどうかである。この点、経済白書などでは、規制緩和すれば、こうした一連の効果が生じるという前提で、経済効果が計量的に推計されているが、この論理系列の理論的な吟味が必要であろう。本年度は、この論理系列の各段階における理論的な吟味を行った。具体的には、規制が緩和された場合、参入と価格低下との関連について、先行研究である、Varian[1994],"Entry and Cost Reduction",University of Michigan.などを中心に理論的な整理と分析を行った。その結果、参入する企業の数増大とともに、価格の低下が生じることは理論的にはいえる。さらに、価格の変化だけでなく、その構成要素である費用や利潤の変化についてまで、分解したうえでの分析が必要であることがあきらかになった。この点では、経済白書などでは価格だけを問題にして、利潤部分と費用部分とにわけた考察は行われていない。マークアップ部分については、独占状態から参入数が増加することにより、マークアップ率が減少することが予想できるが、マークアップ率を維持したまま、費用部分を圧縮することもまた理論的には可能である。したがって、今後は規制緩和されて、価格が低下する場合、そのいずれの対応により調整が行われているか、実証分析を行い、さらに国際比較を行ってゆく計画である。
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