平成9年度は、計画にしたがって第一にラテンアメリカにおける地域経済統合の動きについての政治経済学的分析、第二に同地域の近年の経済パフォーマンスの重層的検討を試みた。達成した成果は以下のとおりである。 第一の点は、ラテンアメリカ地域の近年の経済パフォーマンスの分析から、世界経済への統合度の上昇がもつ不安定化要因を確認した。経済のグローバル化の進展は、各国を世界経済に統合している。発展途上諸国の場合も、地域を問わず1980年代以来の自由主義政策(市場志向型政策)への転換によって、植民地期以来再び世界経済への統合度を高めている。このような統合による経済の相互依存、あるいは世界市場への編入は、発展途上諸国にとってもはや国内景気や成長を最重視した自律的経済政策・開発政策の追求を困難にしている。そのことは端的に94年末からのメキシコ金融危機や、97年後半からのアジア通貨・経済危機が示していることである。世界市場への統合は発展途上諸国に大きなチャンスを与えると同時に、そこでの調整の急激さと市場参加者の期待の不安定さは大きな制約となっている(研究発表「国際資本移動と発展途上国経済の成長・安定」)。 第二の点は、世界経済への統合によって、発展途上諸国が直面せざるを得ないそのような問題に対して、ラテンアメリカ諸国おける地域経済統合がもつ一定の緩和効果の確認である。メキシコにおいてNAFTAは輸出の拡大と投資の再流入によって国内・対外マクロ均衡の回復に大きな役割を果たしたことが、95-97年の経験によって明らかである。また国内経済安定化のために依然、為替のペッグ制をとるブラジル・アルゼンチンにおいては、MERCOSURは地域規模での生産過程の統合(分業の進展)によって効率化を達成すると同時に、域内各国の産業の市場をも創造している。この点は地域統合の大きな利点となっている。
|