平成9年度は、研究初年度として、まず貿易と為替レートに関する理論的研究を進め、物価水準の国際的相違、言い換えれば現実の為替レートの購買力平価からの乖離をもたらすメカニズムを以下のように考察した。「バラッサ=サムエルソン仮説」は、先進国の貿易財部門に生産性上昇が生じた場合、輪出価格が一定に保たれれば、貿易財部門の賃金を上昇させ、これが生産性が上昇しない非貿易財部門の賃金上昇に波及することにより、国内物価を上昇させることを説いた。ここで、バ-ゲニング・パワーの優劣、および賃金独立変数という観点を導入するならば、この仮説は、「不平等交易論」として知られる「プレビッシュ=シンガー命題」ないし「ルイス・モデル」と表裏一体の理論である。先進国における貿易財部門の生産性上昇が、輪出価格を低下させることなく賃金上昇に結びつくのは、先進国企業・労働者のバ-ゲニング・パワーが強いことに起困している。逆に途上国の場合は、貿易財部門に生産性上昇が生じても、都市化の進行とバ-ゲニング・パワーの低さによって形成された硬直的低賃金構造により、輪出価格が低下し、交易条件悪化に帰結してしまうのである。平成10年度は、平成9年度の研究によって明らかになった上述の論理の理論的定式化を完成させるとともに、実証的分析に重点を移し、平成9年度に収集したデータの整理を進め、物価水準の国際的相違に関する統計解析を行う予定である。
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