ヒアリングの結果、いくつか技術移転について理解を深めることができた。第1に、総合商社が技術移転に伴うリスクを需要の発掘という点から支援できる程度は、産業ごとの特徴によって大きく異なるということがわかった。例えば、自動車用の部品を製造する企業にとっては売り込み先は自動車製造業者にほぼ限定されており、商社のアンテナに頼らなくても需要の所在ははっきりしている。一方、素材産業では、企業の製品である素材がどのような用途に使用できるか、その企業でさえ把握しきれない。そのため需要と供給をマッチさせる商社の役割が重要となる。第2に、新しい技術を開発あるいは習得する際のリスクの取り方も産業ごとに異なる場合があることがわかった。例えば、航空機・宇宙開発を行う産業ではリスクがきわめて高いので、政府の補助金に依存する傾向が強い。また、中小の機械工業の中には大企業がリスクを請け負うという形で合同でプロジェクトを行うというケースがあった。しかし、基本的には企業が上げた利益の中から、R&Dに投資を行い、製品の開発、技術の習得を行うという形式である。中小企業の技術習得においては大企業が中小企業を部品納入業者として育てる場合には、中小企業にとって生産不可能な部品を委託することはまれで、さらに大企業のスタッフが当該中小企業に張りついて技術指導を行うことも多い。第3に、新しい技術を導入して習得する際に生じる諸問題についていくつかのパターンがあることがわかり、現在類型化を行っている。その他にも新しい知識を得たがまだ断片的な情報にとどまっており、次年度さらにヒアリングを行って研究を深めていきたい。
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