本研究は、1997年以降のアジア通貨・金融危機の背景と要因を、1990年代の国際通貨体制の変容との関連において検討することを課題にして行われた。 研究実績については、社会労働研究に掲載する予定であるが、その結論を以下のようにまとめられる。アジア諸国の通貨危機に関しては、各国固有の金融市場の問題点が存在することは言うまでもないが、発展途上国が意識的に工業化政策(産業政策)を遂行する場合、必然的に価格体系の相違(国際市場からみて)、または非市場的な資本配分を必要としており、そこだけに通貨危機の要因を求めることは正しくないことである。他方で、国際通貨体制については、アメリカの経常収支赤字の拡大とその赤字額の累積のもとで、アメリカが追求したドル中心の国際金融市場の一体化が、各国ごとの対応や従来のIMFと先進諸国の国際協力による安定のメカニズムを彫り崩してきたことにある。特に、92.93年の欧州通貨危機、94年のメキシコ通貨危機をバネにして拡大した通貨投機のメカニズムが、主に資本流入に依存する形で工業化を図ってきたアジア諸国を中心に、金融市場の改革が国際金融市場の変化に遅れている国をターゲットにして発生したということができる。したがって、国際通貨体制の安定化と途上国に対する安定的な資本移動を実現していくためには、IMFの強化に加えて短期的な資本移動の監視(規制も含む)が必要である。そのセイフティ・ネットのあり方については、投資家のモラル・ハザードを防止するために、IMFの融資の条件に投資家への課税をつけ加えることが不可欠である。
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