本研究は、香港経済発展における香港政庁の役割を明らかにし、それを定量的に評価するための試論である。前年度の研究成果に加えて、平成10年度では、(1)香港レッセフェールの政治経済学的背景 (2)都市計画の経済発展促進効果 (3)香港教育制度の経済学的分析、の3点に関して研究が進められた。そこでは、香港に特有な政策体系を定量化し、以下の諸点が明らかとなった。 第1に、香港政庁の経済政策は、いわゆる開発志向的国家とは大きく性質を異にする点が示唆された。すなわち、香港政庁は地場資本、外資とならぶ利益追求の主体であり、3者でプラスサムを引き起こすゲーム論的な状況が、香港の経済発展を引き起こしたと解釈すべきである。第2に、香港において集約的に展開される都市計画が、狭隘な土地利用を効率化させ、結果的に香港域内の生産性向上をもたらした点が明らかにされた。本研究では、土地落札価格にヘドニック・アプローチを適用して、インフラ建設と土地利用の効率性の程度を定量的に明らかにしている。第3に、香港における各教育機関の収益率を計測することに成功した。興味深い事実は、中等教育(後期)の収益率が、高等教育のそれをほぼ計測全期間を通じて上回っていることである。また、収益率そのものは、他の途上国と比較してかなり低い事実も発見された。 総論で言えば、上記3分野に関して、香港経済独特の政治経済システムを明示的にモデルに取り入れ、その経済構造の定量化にある程度成功したと言える。 なお、上記(1)(レッセフェール主義)に関する研究成果は、平成10年10月の日中経済学術交流会議で報告・議論され、(3)(香港教育制度)については、他のアジアNIES諸国との比較研究を行った上で、英文にて論文を執筆の予定である。また、統計データベースについては、その成果の一部を成果報告書末に掲載している。
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