研究概要 |
今年度の業績としては、和文の論文が1本,英文の論文が1本ある。ただし,英文の論文はもともと和文のものを英訳したものなので,実質的な業績は論文が1本ということになる。 具体的には,18世紀のハンブルクの貿易史を,中継貿易という観点から論じた論文を書いた。この時代のハンブルクはアムステルダムに次いでヨーロッパ第2の貿易港であり,しかも,バルト海貿易においても重要な都市であったにもかかわらず,その研究は日本ではまったく存在していない。日本の西洋史研究においては,都市はいわば自律的な存在として捉えられ,都市間のネットワークに関する研究は,近年に至るまで,ほとんど進展していなかったからである。 18世紀のヨーロッパ経済の特徴は,新大陸アメリカとの貿易量が飛躍的に増大した点にあった。その中心となったのは英仏である。そしてイギリスの大西洋貿易はロンドンを機軸として拡大したのに対し,フランスのそれはハンブルクを機軸として発展したのである。バルト海貿易に関していうならば,イギリスはロンドンを中心としていたのだが,フランスはハンブルクを中心としていた。 新大陸からフランスに運ばれた物産は,やがてハンブルクに再輸出され,そこからまた,陸路を通ってリューベクまで輸送され,リューベクから,バルト海地方に輸出された。新大陸の商品は,大西洋・フランスの港ハンブルク・リューベク・バルト海というルートで新大陸の物産がバルト海地方に送られ,ハンブルクを通して,大西洋とバルト海が結合されたのである。
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