研究概要 |
「資産の証券化の決定とその経済効果を、投資家の持つ情報の非対称性に注目して分析する」という本研究の目的に対し、本年度(9年度)は、分析の基礎理論の構築の関して以下の成果を得た。 (1)住専管理機構やRTC(Resolution Trust Corporation)のように、銀行等から買い取った(不良)債権をできるだけ早くしかも高く売り払うことを目的とする主体が証券化を行う場合、情報が十分開示されずその内容を良く知っている投資家とそうでない投資家が混在するような資産は、(投資家間の情報の非対称性が大きければ)証券化によって売却することはできない。また、そのような主体にとって最適な証券化金融商品のデザインは、各資産を個別に売却することではなく、幾つかの資産の組み合わせを担保にする証券を売却することである。 (2)MBS(モ-ゲージ担保証券)やABS(資産担保証券)のように、国債などの(投資家間の情報の非対称性が小さい)既存証券と価値変動が相関する証券化金融商品については、その相関が大きければ大きいほど、情報に非対称性がある価格変動の部分(例えば倒産リスクや期限前償還リスクなど)を証券化によって資産家に売却することが難しくなる。 以上の結果は、証券化によって投資家に移転可能なリスクに大して情報の非対称性が課す制約を示し、例えば、政策的な観点から言えば、(情報開示が不十分なまま行われた場合の)不良債権処理への証券化技術の利用の限界を示唆するものである。このような情報の非対称性からの証券化に対する制約が、資金調達を通じて生産活動にどのような影響を与えるかを考察することが、次の研究課題である。 (以上の研究結果は、今までにWorking Paper Series,Faculty of Commerce,Hitotsubashi Universityに発表し、MIT、McGill,慶応、一橋を含む各他の大学で報告している。)
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