「資産の証券化の決定とその経済効果を、投資家の持つ情報の非対称性に注目して分析する」という本研究の目的に対し、先年度(9年度)の結果を踏まえ、今年度(10年度)は以下の成果を得た。 (1) 企業もしくは金融機関といった経済主体が、外部の投資家との取引を目的に保有する資産を担保とする証券を発行するとき、一部の資産について情報が十分に開示されず証券発行者が外部の投資家に対し情報優位にあるならば、(a)情報の非対称性が十分大きい場合には発行する証券の種類を制限することが証券発行者の利益となる、(b)証券発行者にとって最適な証券は、一般には、情報の非対称性がある資産と無い資産の組み合わせを担保とするものとなる、(c)しかしながら、証券発行者がリスク回避的である場合、情報の非対称性やヘッジ需要によっては、情報の非対称性がある資産を全く証券化しなことが証券発行者の利益となり得る。 (2) ベンチャー企業の株式公開を企業の資産に対する請求権の証券による売却と解釈して証券化に関する先年度来の成果を適用し、既存証券が取引を可能にするリスクの在り方がベンチャー企業が選択する投資プロジェクトに制約を課すことを示す。具体的には、選択する投資プロジェクトのペイオフと既存証券のペイオフの相関が高いほど、情報の非対称性の大きい内容を含む-したがってより創造的な-プロジェクトの選択は難しくなることが示される。 以上の研究結果は、証券市場の発展がリスク分担と生産活動に与える影響の考察に基盤を与えるものであり、日本経済学学会招待講演や琵琶湖コンファレンスなどの主要な学会で既に報告されている。
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