研究概要 |
(1)法人・個人所有の資産の実効税率を計測し,わが国の税制の時系列的分析をおこなった。戦後には,実効税率に大きな影響を与えるような税制改革はごくわずかの事例に限れ,長期にわたって,税制の効果はほぼ安定的に推移してきたことが判明した。実効税率に大きな影響を与えた改革は,中曽根・竹下政権時のものであった。 包括的所得税を指向したシャープ勧告は,戦後の税制に大きな影響を与えたというの通説である。しかし,シャープ改革の目指した路線は,徴税事務面の問題と資本蓄積政策への意向によりその後後退し,実効税率には一時的な影響を与えたにすぎなかった。資本蓄積促進のために,所得税では株式譲渡益・小額利子所得の非課税,法人税では租税特別措置による投資優遇税制が導入された。実効税率の計測で明らかになった興味深い事実は,前者は実効税率に有意な影響を与え,個人段階は消費課税に近くなっていたが,法人税の租税特別措置効果は限定的で,法人段階では所得課税の形態になっていたことである。こうした混合形態に落ち着いたのは,おそらく意図されたものではなく,通念の認識と実効税率から見た数量的影響の間に乖離があったことがわかる。 (2)実効税率の理論的基礎を深める研究として,モデルを内生的成長理論,不確実性下での投資理論に拡張する作業,社会資本を提供する公的企業への課税方法の理論的考察をおこなった。 公的企業は非課税であるが,補助金の存在により負の課税がなされていると見なされる。非課税が望ましい場合は,社会資本への投資と消費が完全に代替的である場合であることを導いた。また,公的企業に対する政府の関与はソフトな予算制約の問題を引き起こす可能性があり,わが国の場合において,その問題の存在を道路公団,国有林野,整備新幹線の事例研究により指摘した。
|