研究概要 |
(1) 今年は,1887年の所得税成立時よりの資本所得課税への実効税率を計測し,時系列面でのデータを整備した。戦費調達のための増税により,1935年頃より資本所得への実効税率が上昇していくことが観測された。 (2) また,社会資本への補助金がもたらす非効率性について,とくに財政投融資による社会資本整備を対象に,財政投融資改革として議論されている財投債と財投機関債の機能の差異について検討した。企業金融理論の成果を応用するが,財投機関に固有の特徴である,(1)政府が所有権を保有しなければならない,(2)政府からの補助金の存在によりソフトな予算制約の問題をもつ,を考慮にいれて,不完備契約の分析枠組みを導入して,2つのモデル分析をおこなった。 第1のモデルでは,社会資本の便益を納税者が正確に知らない場合には,政府が便益をいつわって,必要以上の補助金を支出することによって,過大な公共投資が発生する状態を考察した。この場合,財投債のもとでこうした補助金を支出することが可能ならば,財投機関債の場合にも同額の補助金を支出できることが示される。したがって,財投機関債で資金調達した場合にも,財投債の場合と同水準の過大な投資を政府は実行することが可能である。 第2のモデルでは,公的関与が必要な条件のもとで,経営努力へのインセンティブの与え方に注目した。現行制度および財投債で資金調達した場合には,経営者には努力インセンティブが与えられない。財投機関債の場合には,経営破綻した場合にあらたなインセンティブが与えられる。しかし,政府および機関債購入者はこうした事態を回避しようと行動するため,投資の帰結は財投債と同じになる。 両者のモデルから以下のような政策的含意が導かれる。適正な公共投資への資源配分のために重要なことは,政府を経由せずに市場でおこなうことではなく,政府の失敗を是正するよう努力することである。
|