退職金制度は、労働者の労働意欲や転職行動に影響を与える。日本の税制は、所得税においては、退職金での受け取りを優遇しており、法人税においても退職金引当金などの優遇税制をもってきた。本研究では、特に所得税における退職金優遇制度の変更が、日本の転職率にどのような影響を与えたかを実証的に分析している。この研究の結果、退職金税制の優遇措置引き上げにより転職率が統計的に有意に低下していることを確認した。また、年齢別、勤続年数別の詳細な研究を進行中である。 次に、退職金制度は、退職時の賃金に比例したり、懲戒解雇の際には払われないといった特徴をもつため、労働意欲に対してプラスの効果をもつとされている。労働意欲の代理変数として、欠勤率をとり、欠勤率が退職金制度とどのような関係にあるかを検証した(大竹(1998))。その結果、退職金が多いほど、欠勤率が低くなり、欠勤抑制に有効であることが示された。この点は、退職金制度が、不完全なモニタリングを補完する制度として機能していることを示唆している。この研究では、労働組合の有無で、欠勤抑制効果を比較している。興味深い結果は、労働組合が存在しない企業で、退職金の欠勤抑制効果がよりはっきりと観察できることである。 配偶者(特別)控除制度は、パートタイム労働者の労働供給を阻害しているという指摘が、しばしばなされる。この点について、Abe and Ohtake(1997)は、多くのパートタイム労働者が、非課税限度のところに集中していることを示した。
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