本研究は、日本の資本市場における株式持ち合いが(1)株価形成、(2)企業経営の規律づけに与える効果を、実験経済学の手法を使って明らかにしようとする試みである。今年度は、このうち(2)の企業経営の規律づけ効果を中心にして、何度かの予備実験と6回の本実験を実施して分析を行った。そして、これらの実験結果から得られた知見は次のようなものである。 まず第1に、株式のテ-クオーバーを通じた企業経営の規律づけは、株式がかなり分散して保有されている状況でも、起こることがあるということである。これは、有名なGrossman & llart(1980)モデルの理論的帰結が、現実には必ずしも成立しないことを示している。そして第2に、株式がある程度集中して保有されている状況では、テ-クオーバーを通じた経営の規律付けがより機能しやすくなることである。これは、Sh1eifer & Vishny(1986)モデルが現実に妥当している可能姓を示唆する。こうしたテ-クオーバーモデルを実験によって検証した研究はこれまでにはない。なお、研究の過程における暫定的な成果は、ファイナンスフォーラムの12月の集中研究会で報告された。 上記の結果は、株式の集中が企業経営の規律づけに有効であるというものであり、ある意味では、日本の株式持ち合いにプラスの面があることを示唆するかのようである。しかし、日本の株式持ち合いの効果をより深く考える場合には、さらに2つの要素、(1)経営者同士の結託、(2)株式が少数者によって保有されていること、を分折の中に取り入れる必要がある。これらは来年度の課題として考察していきたい。。
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