本研究では、製品開発活動における知識蓄積や知識伝承がどのように行われているのかを明らかにするための事例研究を行うとともに、効果的なマネジメントを考える上での概念枠組みを提供した。概念的な作業としてはまず、新製品開発における知識の種類をシステム知識と領域限定的知識に分類し、前者の伝承には人的メカニズムが後者の伝承には文書やコンピュータ化が適していることを議論した。また効果的な知識伝承方法は製品のアーキテクチャーによっても影響を受けることを指摘した。統合アーキテクチャーをもつ製品とモジュラーアーキテクチャーをもつ製品では製品進化の焦点が異なるために知識伝承の方法も異なるという指摘である。これらの議論は自動車開発プロジェクトのデータを用いて部分的に確認された。 自動車産業の他に事例研究として電子スチルカメラ産業と航空機産業を調査した。電子スチルカメラ産業に関しては、特に既存の銀塩カメラ・フィルムメーカーに注目して、既存事業を侵食するような製品の開発が、全く利益を生み出さないにも関わらず20年にも渡って続けられ、技術的知識や人材が継承されてきたプロセスを明らかにすることが主たる目的であった。実際、開発プロジェクトが消滅したこともあった。それでも技術的知識やそれをもつ人材は保持されてきた1つの要因は技術用途のすり替えである。電子スチルカメラ開発の技術や人材をビデオカメラなど市場のある他の製品開発に柔軟に振り替えることで技術の継続を可能にしていた。航空機産業についてはボーイング社の777開発の事例研究を行った。797開発の経験や日本企業を含めた他企業のベンチマークが、Preferred Processと呼ばれる新しい開発プロセスの確立に大きく寄与していた。また777開発で全面的に採用された3次元CADが、製品開発における知識や情報のマネジメントにいかなる変革を要請するのかが明らかにされた。
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