これまでの研究において、日本の電力企業9社における報告利益管理をJonesモデルおよび修正Jonesモデル等を利用して検証し、利益平準化仮説を支持する結果を得ている。これと同じデータにおいて、Kang and Sivaramakrishnan(1995)において提唱された発生項目残高モデルを利用して同様の検証を実施した。その結果は、Jonesモデルおよび修正Jonesモデルを利用した場合に得られた結果ほとは明確ではなく、利益平準化仮説を完全に支持できる結果とはならなかった。また、この結果は、推定方法としてOLSを利用してもGMMを利用しても基本的に大きな変化はなかった。Jonesモデルと発生項目残高モデルがそれぞれどの程度の検出能力があるのかを検討していく必要がある。 上記とは別に、電力業以外の業種として総合商社9社についても検討している。ここでは、電力業の場合と違い、連結財務データを利用して利益平準化仮説についてJonesモデルを利用して検証した。結果として、利益平準化仮説は支持できなかった。これは、総合商社は多業種に進出しておりリスク分散化が進んでいるため、そもそも利益平準化のインセンティブが弱いのかもしれない。しかしながら、業種特性がJonesモデルの検出能力を弱めている可能性もある。 以上のような分析結果から、シミュレーションなどの方法によってモデル自体の検出能力を業種特性などと関連させながら検討を加える必要があるといえる。
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