研究概要 |
平成9年度に奨励研究(A)の交付を受けて「多国間上場企業の自発的情報開示行動に関する実証研究」をおこなった.その結果,次の点が明らかとなった. 第一に,外国証券市場において資金調達をおこなう企業は,信頼性のある情報量を増やし,情報の質的向上をはかることによって,一般に,資金調達コストを削減するインセンティブをもつ. 第二に,多国間上場企業の経営者は,予想を大幅に下回る利益に直面した場合,利益予測情報の開示を怠る傾向がある.このような経営者の消極的開示は,悪いニュース(bad news)が開示されることにより,株主訴訟コストが発生すること,投資家・証券アナリストの信頼を失うこと,信頼性の喪失にともなう投資家の過剰反応が発生することを危惧して行われる. 第三に,自発的情報開示は,経営者と株主の情報の非対称性を解消し,投資家とのコミニュケーションを円滑化させる. 第四に,自発的開示は会計基準,会社法などによる規制のもとでの開示と比べて経営者の裁量権がおよぶ範囲が圧倒的に広い.したがって多国間上場企業の経営者・財務担当取締役は,情報の受け手の反応をあらかじめ予想して,自発的情報の開示内容・タイミングを操作する傾向がある.
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