平成10年度科学研究費補助金(奨励研究(A)):多国間企業上場企業の自発的情報開示行動に関する実証的研究を受けておこなった研究の成果の要旨は、次のとおりである。 (1) 国内だけでなく、外国の証券市場において証券の発行をおこなう多国間上場企業は、資金調達コストの低下を目論み、自国以外の証券市場において資金を調達する。上場基準をクリアするためには、自国の基準によると強制開示が要求されないが、発行市場において開示が強制される情報を自発的に追加開示する。 (2) 英国、米国、および日本の多国間上場企業のセグメント会計情報、とりわけ地域別セグメント報告基準と開示実態について検討した。サンプル企業は、通商産業省産業政策局編『世界の企業の経営分析(1996年版)』大蔵省印刷局、1997年の対象となったメーカーの中からできる限り業種に偏りがないように配慮し、選択した。 その結果、米国の経営者はセグメント認識にかんする自由裁量権を行使し、広い範囲を一つの地域とみなし、セグメント数を減らしていると推定され、英米日のサンプル企業の報告セグメント数には統計的に有意な差が見られた。その理由は、企業の内部情報の漏洩にともなう競争上の優位性喪失を経営者が危惧したからであると考えられる。我が国の代表的多国間上場企業であるマキタ、ソニー、日立製作所、本田技研工業などは、英米企業と比較して遜色がないほどセグメント数を細分化していた。 これらの研究成果の一部は、日本会計研究学会第57回大会自由論題報告(平成10年9月)および「米国セグメント会計基重の有用性」『経理研究』42号、平成10年11月において発表した。
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