最近の金融・証券市場の自由化に伴い、わが国の企業に対して、官製の統制された市場ではなく競争市場での自由な競争が求められるようになりつつある。そのような市場では、完全ディスクロージャーと自己責任という2つの基礎的条件の充足が前提となる。そして前者の完全なディスクロージャーは、企業経営者による財務情報の作成とそれに対する外部監査人による保証によって達成される。 今回の科学研究費による研究では、とくにアメリカのSECが完全ディスクロージャーを確保するために執行している海外贈賄禁止法(FCPA)に着目した。周知のようにアメリカの経済政策は市場重視の事後統制型である。そこでは[摘発→制裁→予防]というプロセスが採られており、摘発された違法行為に対しては現在および将来における同種の違法行為を予防するという観点から制裁が行なわれている。SECによる執行活動も例外ではなく、摘発された違法行為に対しては、厳格な民事制裁が下される仕組みとなっている。わが国における従来からの経済政策が、詳細な行政指導による[予防→摘発→制裁]というプロセスを採り、摘発された違反者による現在の違法行為のみを対象に制裁を下してきたのに比べると、大きな違いがある。本研究では、アメリカ流の市場を中心とした事後統制型経済を選択した場合、証券市場においてどのような形でそのアプローチが顕在化してくるのか、をSEC発行の会計・監査執行通牒(AAER)を用いて具体的・直接的に明らかにしようとした。 今後、研究を進めるためには、完全ディスクロージャーを確保するために、SECが下してきた制裁活動をさらに詳細に検討し、経営者・管理者・監査人といった利害関係者のどのような行為(注意基準や判断基準を含め)が制裁の対象になったのかについて、明らかにしていく必要がある。
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