本年度においては、本研究に必要なデータの収集・整理と関連する文献のサーベイを中心に行った。まず、データの収集・整理であるが、これは内部者取引規制が実施された平成元年4月以前の3年分と、当該法律施行後の9年分を整理する計画であった。収集データは、上場企業の(1)決算短信で開示された予想利益情報、(2)中間決算短信で開示された予想利益情報、(3)業績修正により開示された改訂予想利益情報、(4)決算利益情報、(5)決算財務数値、そして(6)重要な会計方針に関する情報である。これらの収集データのうち、(1)〜(3)および(6)については、証券取引所等へ出張して収集した。また、(6)については、一橋大学のイノベーション・リサーチ・センター等で収集した。しかし、現在のところ、当該法律施行後4年分までしか整理できていない。データ整理が若干遅れている理由は、収集したデータが膨大であることにつきる。今後、計画の遅れを取り戻すよう努力して行きたい。 次に、関連論文のサーベイであるが、これは次の3つの研究領域に属する文献を中心に進めた。1つは、財務論の立場から内部者取引を扱った文献である。この立場からの分析は、内部者取引行動が異常収益の獲得につながっているか否かをリサーチしたものが中心であった。2つ目は、経営者による予想利益の開示を扱った文献である。経営者による予想利益情報の開示は、多くの場合、企業業績が好調なときに行われるという証拠が発見されている。そして、3つ目は、自発的ディスクロージャーを扱った文献である。以上のサーベイを通じて、自発的ディスクロージャーが経営者と投資家の間に情報の非対称性を埋め、内部者取引規制に抵触するリスクを逓減させる可能性をひめているという着想を得た。来年度に実施する予定の実証研究では、この点についても解明できればと考えている。
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