研究概要 |
利益や株主資本の簿価は,わが国の一般に認められた会計原則に基づいて企業業績を測定した値である。本研究の目的は企業の市場評価(株価)と会計測定値(利益,株主資本簿価)の理論的・実証的な関連性を明らかにすることである。財務諸表上では,株主資本の増加は,当期利益から配当を控除した額に等しい。これはクリーンサープラス関係と呼ばれ,会計の基本的な特徴である。この研究では,クリーンサープラス会計と割引配当モデルの枠組みで,利益と株主資本簿価がドリフト付ランダムウォークモデルあるいは線形トレンドモデルという代表的な時系列モデルで記述できる場合について,実証可能な株式評価モデル(利益モデル,利益-株主資本簿価モデル)が理論的に導かれている。さらに,これらの会計測定値に基づく株式評価モデルを用いて,11349社・年(658社,1980-1998年)という大規模な標本を対象に,利益や株主資本簿価と株価の関連性が検証されている。この結果,当期の株価変動に関して,利益モデルは25.9%,株式資本簿価モデルは33.1%,利益-株主資本簿価によって株価の変動を平均して50.9%(1980年代では31.1%)説明できる。これは業績不振企業の増加に伴い株主資本簿価と株価の関連性が高まったためであると考えられる。損益計算書と貸借対照表の二つの情報システムから,利益や株主資本という集約した情報を互いに補完しながら投資家に提供するという,会計のより本質的な機能が検証されている。
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