本年度においては、まず、多国籍企業の戦略的管理会計について文献を収集し、これまでの研究業績を網羅して体系づけるとともに、これらに基づいて海外子会社の戦略的管理会計に関するいくつかの仮説を設定した。第1に実施したのは、企業の戦略に関する管理会計の関わりをどのようにとらえるかであった。「戦略的管理会計への管理会計領域の拡大」、「戦略遂行のための経営管理システム」および「因果連鎖を組み込んだマネジメント・コントロール・システムの展開」において詳述したように、管理会計の戦略に対する有用性は、戦略策定のために資する会計情報を提供することと、戦略遂行のためのマネジメント・コントロール・システムを構築することにあると考えられる。企業の経営活動および管理活動は、すべて戦略を中心において考察されなければならない点を明確にし、そのために必要となるマネジメント・コントロール・システムのあり方について、提言を行っている。次いで、この議論を多国籍企業に拡張し、海外子会社がその事業戦略の策定および遂行を行うに当たって、選択される戦略の種類によってマネジメント・コントロール・システムが異なるという仮説を置いた。選択される戦略の種類には、様々なものが考えられるが、最終的にはこれを3〜4程度に絞り込み、それぞれにおけるマネジメント・コントロール・システムの特性を抽出するとともに、有用な管理会計の手法を考察するために、現在、調査の執行段階にある。来年度は、調査票を回収した上で、その結果を統計的検定にかけることで、仮説を検証する予定である。
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