正標数の代数多様体に対しては可換なホッジ理論が成り立たない以上、非可換な場合も成り立たないと予想されるが、その反例を構成し、研究することがまず必要となるので、奈良女子大学の武田氏と共同で、正標数の代数曲面で興味深いホッジ構造を持つと思われる例を構成する一般的な方法を開発した。この成果は、武田氏との共著の論文として、現在投稿中である。一方、この期間に非可換ホッジ理論はシンプソンにより大きく進展した。まず、高次の非可換ホッジ構造の理論が生まれ、ホッジフィルトレーションも一般化された。さらに混合ホッジ構造の概念を含む混合ツイスター構造などの概念も発見された。これらの理論は、ホモトピー論、カテゴリー論を駆使して展開される。このシンプソンの広大な理論を理解するためトポロジーや表現論の文献を研究した。これらのことについて平成11年2月に非可換ホッジ理論の紹介のための研究会で連続講演をした。また、当初の計画では考えていなかったが、非可換スキームの理論を学んだ結果、非可換ホッジ理論を非可換スキームの変形理論の枠組みで捕らえられるのではないかとの着想を得た。非可換スキームの理論はまだ完成には程遠いようであるが、基本的な文献を手に入れ現在も学習中である。変形理論を作り上げねばならないが、特殊な状況で変形理論といえるものを考えると、非可換ホッジ対応が自然に浮かび上がってくることがわかった。
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