名古屋大の谷川氏との共同による論文では保型L関数の数値計算という問題をあつかった。保型L関数はその係数の不規則性のため、critical stripでの数値計算が難しい。従来の方法はメリン変換による積分表示と保型性を用いる事であるが、変数の虚部の値が大きいと実際の計算は現実的には不可能である。というのはガンマ関数の値が非常に小さくなるので分母子が指数的に小さい分数を扱うこととなり有効数字の大きな桁落ちを生ずるのである。一方でリーマンのゼータ関数やディリクレのL関数は係数が周期的であることを利用して精密な計算方法が与えられ、リーマン予想も虚部の大きいところまで調べられている。そこでこの論文ではLavriok-Turganarievによる近似関数等式の方法を用いて実行可能で誤差の評価を行える方法を確立した。そしてこの論文では数値計算の実例としていくつかの楕円L関数のリーマン予想をある程度の虚部の大きさまで確かめた。 第二の論文ではPisot数系の基本的性質を調べた。Pisot数系は、一般的な数の表示と似た性質をもつ。従ってその詳しい性質を調べることは、与えられた数の無理性、代数性、同時近似問題などを調べることに役立つ。この論文ではPisot数系がその体の整数を有限表現するか、有理数が純循環表示されるかなどの基本的問題を考えいくつかの結果を得た。その主要なものは整数が有限表現されるようなPisot unitの場合は十分小さい有理数は純循環であるというものである。この結果は空間の自己相似なフラクタル境界をもつタイルによる充填問題と深く関係しておりさらに研究が進んでいる。 第三の論文は一様分布論における概一様分布の概念が素数分布の問題に役立つという新たな問題提起を行った。この方向は鳥取大の後藤氏などによりさらに追求されている。
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