平成9年度には私の研究は主に三つの方面において進展を見ました: 1.双曲的曲線の内在的ホッジ理論のArakelov版について:これまでにp進体上で様々な発展をみてきた「双曲的曲線の内在的ホッジ理論」をArakelov幾何の領域に拡張することは本研究課題の主な目標であるが、まだ研究の初期の段階にある現時点においては、試行錯誤を繰り返す以外にアプローチは思い付かない。そこで、昨年の4月から12月にかけて、Gelfond-Schneiderの超越性定理の手法に的を絞り、同様な手法を用いた最近のChudnovskyやAndreの仕事を勉強し、その手法にGrothendieck流の抽象的数論幾何を組み合わせることによって所望の理論が作れないか検討したが、成功には至らなかった。 2.グロタンディーク予想関係:p進局所体上のいわゆる「セクション予想」を証明するにあたって、様々な技術的進展はみられたが、まだ予想そのものを証明するには至っていない。ただし、その技術的進展の面白い副産物として、双曲的曲線の「反復的な族」として生じる「双曲的多重曲線」の標準的なコンパクト化の理論を構成することができ、それをテーマの二つの論文を書いた(まだプレプリントの状態)。その理論の系の一つとして、de Jong alterationsの定理の非常に自然な証明ができ、その証明に議論を更に精密化することによって、de Jongの定理のもっと強いversionを証明できる可能性すら出てきた。 3.一般化通常理論:双曲的曲線のモジュライのp進的一意化理論を一般化するこの理論だが、以前はプレプリントのままだったこの理論に関する二つの論文を、一冊の(恐らく400頁位の)本にまとめることに関連した様々な作業を行った。
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